学習にコーチングを生かすための基本

コーチングは3つの原則、技術、心構えの要素から構築されているのですが、それをどのように学習に生かせばいいのか?

コーチングとはそもそも、具体的にどのように考え方やツールを用いて、目標達成に向かっていくのかというプロセスを理解することでその基本を理解する事ができるでしょう。

要素の構成をつかむために、コーチングの全体的な構造を表わしたものが、以下の図です。これら「3原則」「技術」「心構え」は、コーチングの構造において常に複合的に作用します。

コーチングの全体像

3つの原則

双方向性

コミュニケーションが双方向で行われるものと思っている人は多いです。

しかし、実際にはインストラクター(講師)と学生と話す場合、インストラクター(講師)が話し、その内容を聞いた学生が言われたとおりにやるという、一方通行のコミュニケーションになっていることがよくあります。

「私の経験に基づいた方法を経れば、君は技術を身につける事が出来る」というように、権威や権限や知識・経験の過多によって従わせるやり方がその典型です。
しかし、そうしたやり方だけを用いていると、不測事態対応能力(コンティンジェンシープラン)の欠如、つまり反復した練習からハミ出す不測の事態に対応が出来ないという問題が起こりかねません。

つまり、すべての事柄についてインストラクター(講師)にお伺いを立てないと、事物を進める事が出来なくなりオーディションなどで全く役に立たない状況になってしまう恐れが出てくるのです。

起こった出来事に即応して臨機応変に対応できるようにするためには、一方通行の指示的な学習ではなく、相手にも意見を言わせる双方向なアプローチが必要不可欠になります。

こうしたアプローチは、一見すると時間や手間がかかるように思われるかもしれません。

しかし、それによって学生は自律的に行動ができ、新しいアイディアを生み出せる学生を育成できれば、指示を待たなくても動いてくれるので、トータルではインストラクター(講師)の時間の節減にもつながっていきます。

こうしたように双方向のアプローチによってインストラクター(講師)と学生がコミュニケーションを取って学習を進めることによって、より長期的な観点に立って学生の学習を促すものといえるでしょう。

現在進行

コーチングを含んだ学習を一度受けたからといって、すぐに学習のパフォーマンスが高まるわけではありません。

学習は継続して働きかけていくことで、徐々に学習のパフォーマンスを向上させていく必要があります。

3カ月程のコーチングを含んだ学習を提供する事でそれほど変わらない人でも、1年間、できれば2、3年かけてコーチングを含む学習を受けていくことで、必ず変化が見られるようになりますし、さらにはそうしたコーチングを含まない学習とは大きく差が開くという事も可能です。

特に重要なのは、コースの講義を受けた後に、現場に戻って実践しその後、再びコース(コーチングを含んだ学習)を受講して、それを現場で実践するという繰り返しが重要となるのです。

1997年に行われたある研究結果(Baruch college researcher Gerald Olivero, K.Denise Bane, Richard E.Kopelman)によると、1回だけの研修では、マネジャーの生産性の向上は28%だったのが、その後、フォローアップやコーチングを入れた結果、生産性は80%まで上がったそうです。こうした結果からも、継続的に取り組むことの重要性を読み取ることができます。

このように仕事でコーチングを意識することで、成果を得ることができるのは実証されているので、インストラクター(講師)としてコーチングを学んでからコースを作る事を意識することより価値の高い学習とコースの提供が出来ると言う事が言えます。

「学習は一日にして成らず。」実践して、フィードバックを得て、結果を確認し、改善し、またフィードバックを得る。こうした現在進行形を意識した学習によって、学生は少しずつ、しかし着実に変化していくのです。

個別対応

人材開発手法の一つに、全員に対してすべて同じ方法をとってきたことが挙げられます。

しかし、こうした一括の学習体験というものは、平均化された内容なので、人の価値観・考え方・行動パターン・物事の受け止め方、情報の受け止め方といった多様化が進行している現在では、すべての人に同じ方法で教えても、必ずしも同じ学習効果が得られなくなってきています。

コーチングを含む学習は基本的に1対1で行います。

個人差を無視して、一つのやり方を一方的に押し付けたり、同じ言葉をかけたりしたところで、当然学生はその個人によって受け止め方は異なります。だからこそ、個別対応が求められるのです。

ある一つの例をご紹介しましょう。

米大リーグのトミー・ラソーダ元監督は、ドジャースの成績が低迷して経営が傾いているときに監督に就任し、チームを蘇生させたことで知られています。彼は選手のことをよく観察して、気づいたことは何でもメモするため、「メモ魔」と言われていたほどでした。

例えば、ある選手がヒットを打ったとします。ベンチに戻ってきたときに「good」と褒めたが、相手はニコリともしない。すると、ラソーダ氏はメモ帳を取り出して、「彼には『good』という言葉ではダメだ」と書きとめる。

次に、またその選手がヒットを打ったとき、今度は「great!」と声をかけてみる。彼が少しニコッとすると、「彼には『great!』という言葉のほうがよい」と書きとめる、といった具合です。

このように褒めて育てたり、叱って育てたり、といった単純なやり方ではありません。

子供の育て方で、褒めて伸ばすという論理を提唱して、子供をしかってはいけないと言うような誤った論主が展開されていますが、子供の育成も同じで、どういった原因で、何がいけないのかを理解する事が出来ないと、「誤り」を理解できない人間になってしまいます。

学習という、反復の修練が必要な内容の場合、このような時に適切に褒めて、適切にしかる場合でも個別に、その人のパーソナリティを把握した上で、タイミングを計りその内容を修正して反復を促すことでより効率的な学習を提供出来るのです。

その学生がどのタイミングで、どのように叱ればいいのか、褒めればいいのかをインストラクター(講師)として冷静に見極め、学生によって個別に対応した結果であれば、学生はその学習を見事に修得出来るのです。

コースで提供すべきコーチングのスキル(技術)

ここまで紹介をしてきた3つの原則をベースにして、目標に向かって「質問」や「聞く」などのスキルを用いて、コーチングは行います。

特に学習シーンにおけるコーチングで重要なのは、学生個人の目標を明確にしておくことです。

学習にコーチングを導入して、ただ、なんとなく技術を磨き上げていこうという考え方では決してうまくはいかないでしょう。

学生が何を求めているかを踏まえて、その目標を達成するためにインストラクター(講師)としてコースを提供していくことが大前提とすることでより効果のある学習を提供出来るようになるのです。

また、コースにおけるコーチングには多種多様のスキルがありますが、コミュニケーションを通じて学生の価値観や考え方を理解する場合に、特に重要なのが「聞く」というスキルや「質問」というスキルです。

コーチングのコミュニケーションでは、学習においても「質問」と「聞く」スキルを中心にしながら、さまざまなスキルを活用していきます。

コーチングの3つの原則と各種スキルを対応させると、以下のように整理することができます。

前提となる考え方コーチングの3つの原則コーチングスキル
心構え双方向性質問
聴く
ぺーシング
現在進行形承認
構造づくり
コーチングの戦略
個別対応タイプ分け
データベース
学習スタイル

コミュニケーションの双方向性を促進するスキルとして、質問聴くぺーシングペーシングとは、コミュニケーション技法の1つで、話し方や身振りなどを相手に合わせること。)が挙げられます。

単に対面でコースを提供するよりも、修得をしやすい環境とスキルを身につけた上で学習を提供することで大変付加価値の高い学習を提供出来ます。その際に、きちんと質問・聴く・ぺーシングといった事を意識しておけば、学生の要望を引き出して、その効果を実感して貰いつつ、学習を促進する事が可能となるのです。

次に、現在進行を促進するのが、承認構造づくり戦略です。

学生に対して、その目標を承認してあげ、そのために必要な事を提示して、それを獲得するためのステップを練る事が付加価値となるのです。

個別対応という観点で役立つのが、タイプ分けデータベース学習スタイルとなります。

上記の現在進行を完遂するために、学生をタイプ分けして、その類例をデータベース化することで、インストラクター(講師)として適切な学習スタイルが提供出来ます。

この事を踏まえて、個別に学習するための留意点を勘案する事ができればより習得度の高い学習体験を提供する事が出来ます。

スキルは一朝一夕に身につくものではありませんから、コースを提供する中で、学生から適切な学習方法であるケースを広いあげ、インストラクター(講師)としても継続的に学び、日々実践し続けていく中で自然と身についていくものといえるでしょう。

コーチングを活用する上での心構えとは?

コーチングのスキルをマスターすれば、それでコーチングができるようになるのかというと、それほど簡単ではありません。

必須の対処としては、学生との間に信頼に基づく関係性を構築するという大きなハードルが存在するのです。

インストラクター(講師)と学生の双方に信頼関係が構築されない限り、どれほど有用なコースでコーチングのスキルを駆使した学習を提供しても、学生は正直な気持ちを語ろうとはしないでしょう。

信頼関係を築いていくためには、自分以外の人の目標達成に関心を持ち、その人たちが目標を達成するためにどのような支援をし、どのように力を貸してくれるのかという姿勢を知るための心構えを持つことが大切です。

インストラクター(講師)にとって直接的な利害とは関係なく、純粋にその人のためになるか?学生としてだけではない成長を支援できるか?という考え方を持つ事をインストラクター(講師)の心構えが求められます。

求められる主な心構え
理想のビジョン提示力学生に対して、ビジョンと技術の習得がどのように仕事へつながるかを伝える
信頼基盤学生一人一人に対して公平に振る舞う
個人能力による影響力自分の現場だけでなく、仕事をする現場、業界全体を考えて判断している
関わりによる影響力学生の成功や成長を支援している

(出典:コーチング研究所「リーダーシップアセスメントの質問例」より作成)

学生が成功したとき、素直にうれしいと思えるでしょうか?

学生の目標達成を支援することを心から喜べない人は、インストラクター(講師)とはいえません。一方的に要求したり、ギブ・アンド・テイクを求めたりする関係ではなく、貢献を第一義として、相手からの見返りを求めずに、相手に何を提供できるかと考えることが大切です。

また、コーチングを意識して提供する学習では、学生自身が答えを見つけることを重視するので、自分のやり方や経験が絶対に正しいという考え方は捨てなくてはなりません。

そして、学生の主体的行動を育てようという観点も重要です。

学生の「主体性を持った視点」を養うためには、学習でも、他の学生の目標達成に関心を持たせて、コースの学生全体で共に成長を考えるようにする心構えを育てていく必要があるでしょう。

学生の育成プロセスの中で、こうした心構えを磨き続けることは、学生だけではなく、学生自身のさらなる成長の機会にもつながっていくのではないでしょうか?

まとめ

学習にコーチングを生かすための基本

この図ように、インストラクターが技能としてコーチングスキルを持っていれば、学生技能について右の赤いエリアの事を獲得してあげる事が出来ます。

学習ではきちんとプロセスや技術を身につける上において、インストラクター(講師)側がちょっとした違いを提供できるかが、コースの価値を決めると言っても過言ではありません。

単に、こうすれば出来るや経験談だけを語るだけでは、学生はその内容を聞き流してしまいます。

体験を提供して、それを如何に、自分の中に取り込んで貰うかと言った命題で、一方通行に「こうすればいい!」「これが出来れるべき!」といったお仕着せの学習では、修得出来るべきものも修得出来ず、また、技術を習得することで得られるメリットを実感する事も出来ません。

また、一長一短で習得できるものではなく、得がたい経験であると言うことを認識することが学生としての基礎の土台となります。

学習において何故やるかと言った簡単な答えは、学生聞かれたら答えるのではなく、聞くように仕向け、理解をしているのかの確認と、それを承認することでの定着といった効果を得ることもできます。

こうしたスキルをもつコーチングを意識して学習を提供することで、インストラクター(講師)の提供するコースの付加価値は高まり、オンラインとオフラインの違い、集団学習と個別学習の違い、その価値を提供する対価の説得力にもなります。

この辺りを説明や実感が出来ないまま提供されているから、受講する側は高く感じるし、効果を実感出来ていないのではないでしょうか?

単に、学習機会を提供するよりもその人にあった個別学習であり、さらにはそれが対面であると言った事の方がより高い付加価値がそのコースにはあると言えるわけです。

ちょっとした差別化ですが、このような事を意識して学習機会を提供してみれはいかがでしょうか?

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